雨から晴れ
夜勤明け
もう帰る時間 間もないころ
孝生は一人 雨の外を 雨の空を眺めていた
雨は降ったりやんだりを繰り返し
雲は勢いよく流れていた
「メロディー」を口ずさむ
あんなにも好きだった ♪
きみがいたこの町に
いまもまだ大好きな
あの歌は聞こえてるよ
あの頃はなにもなくて ♪
それだって楽しくやったよ
メロディー泣きながら
ぼくたちは幸せを見つめてたよ
メロディーいつのまに ♪
大切なものなくした
遠い空流されても ♪
あの歌は心から聞こえてるよ ♪
12年前の自分を見つめていた
同じようにスーツを着て 辞令に臨む人たち
色々な事に翻弄され それでも自分なりにしっかり生きたつもり
しっかり出来なかったけれど 必死に生きたつもり
大切なものなくしたけれど
それでも必死に12年生きてきた
雨の中を走る
フロントガラスに向かってくる雨を振りほどきながら走った
人生は 起承転結
もしかしたら 起承転結の繰り返し
台所で夕べの残りものを温め ストロングを飲み干し
風呂に入って 布団に入った
目覚めたら 埼玉の空は雨が上がり
雨が降っていたとも思えないくらい晴れ渡っていた
彼女の声が聞こえたような気がする
:私は大丈夫だよ 今は穏やかに幸せに暮らしています
懐かしいお名前を聞き驚いていますが 当時はこちらこそお世話になりました
定年までもう少しと思います あまり頑張りすぎず定年までお勤めを
されますよう お体を大切にされますよう 願っています
孝生のとり越し苦労だったようだ
帰りの車の中 雨を見つめながら
何度も 「メロディー」と「声」
玉置浩二のささやき そして 桜井和寿の叫び を聴き
彼女の事を考えていた
白い雲が 埼玉の空を流れていく
ゆっくりと 穏やかに流れていく
さ いこう
俺も 残り4年
そしてそこから続く人生を いこう
まだまだ終われない